夏に読みたくなる本というのが、ある。
冒険小説や戦争を描いた作品と同じように、
『昭和の青春 播磨を想う』を再読する。
ドイツ文学者でエッセイストだった池内 紀(おさむ)さんの短編集である。
兵庫県姫路市出身の池内さんが、故郷を舞台に、
市井の人々の暮らしや出来事を温かいまなざしで綴っている。
驚くような筋書きがあるわけではない。
輝くような主人公が描かれることもない。
それなのに、話の展開や主人公の心の動きに引き込まれてしまう。
ここに池内さんの世界がある。
池内さんから届く原稿や手紙には、
編集者に宛てた短いコメントや謝辞が添えられていて、
手書きのイラストが描かれている事が多かったように思う。
細部を観察し、思いを巡らす人の心配りだった。
8月30日は池内さんの命日。
今夏も読み返している。(G)