年末年始に読み返す本が、いくつかあります。そのうちの一冊が『父の詫び状』です。昭和のテレビドラマに多くの脚本を書き、後に直木賞を受賞した向田邦子さんのエッセイ集（文藝春秋発行）。ホームドラマに定評のある向田さんが、自らの家族や自身の事を、哀歓をこめて綴っています。
その本の中に「チーコとグランデ」という作品があります。食べ物の大きい小さいがテーマなのですが、電車の中で置き忘れられた大きなクリスマスケーキを、自分が買った小さなケーキと取り替えようかと一瞬思う心の動きを書いた一節です。当時の向田さんの心情が、まるでドラマを見ているように伝わってきます。
クリスマスソングが街に流れ、人々が足早に家路を急ぐこの季節。いくら時代が変わっても、クリスマスって楽しくて、ちょっぴり切ないのだと思い起こす忘れられないエッセイです。
時折、本棚から出してきて再読する。これも読書の喜びですね。（G）